さくら学院の閉校が発表されたのに伴い、何とも言えない感情ミルフィーユに久しぶりにざくりとフォークが突き立てられ、何かが切断され、寄る方ない気持ちになる。これを、何か言葉にしなくては、と妙に焦るのだけれど、上手くまとまらず、結局、自分が凡庸な父兄だったころの文章を読むことのほうが、なにかふさわしい気がして。
そこで、半分は備忘録として、当時書いていたアマゾンのレビューを時系列順にまとめてみることにした。もう半分は? それはもちろん、わたしがいちばん、熱く、美しかったころのことを知ってほしいから、ですよ。ではどうぞ。
(作業途中。続きます)
「さくら学院 2010年度 〜 message〜」
願いに形があるとするなら
〈まちがってたら/ごめんなさい/教えてもらって/ありがとう〉
このタイトル曲でもある「message」のワンフレーズ。でも『そんなうまくいくかよ。そんなに単純なもんじゃないよ。』と、少し大人になれば誰でも知っていること。しかし、このフレーズのなかにこそ、さくら学院の魅力が端的に表現されています。それは、『でも、そうあって欲しいな。彼女たちなら、自分たちが知っているのと違う世界を見つけられるかもしれない』という期待です。作家たちはおそらく、さくら学院だから、あの歌詞が書けるのだろうと思います。そして、さくら学院だから、その歌を歌いきることができる。圧倒的なピュアネス、透明感、そして、美しいユニゾンの持つ高揚感と多幸感。
さくら学院の出発点であり、彼女たちの歩みが進むたびに存在感も増す基準点でもあるファーストアルバム。ライヴでも定番の「Fly away」「Hello! IVY」。そして、楽曲派アイドルファンだけでなく、音楽通まで骨抜きにした「Dear Mr.Socrates」は、とにかく聴いてみてよ!としか言いようがないほどのきらめきに満ちています。さくら学院の行方に幸多きことを祈って星5つ!
「さくら学院 2011年度 〜friends〜」
現状、星5つ付けたい
ルックスもスキルも粒ぞろいの成長期限定ユニットによる2011年度版のアルバム。
始業のチャイムから始まり、各部活動(=派生ユニット)の発表を挟んで、卒業式の定番曲で締めくくるという明快ながらも美しい流れ。「ピクトグラム」のようなちょっとクールな曲も、しっかりと雰囲気に馴染ませてるところに彼女らの成長と挑戦を感じます(この曲は、メンバーの佐藤日向&杉崎寧々監督、さくら学院撮影のMVも見事です)。「学校エンターテイメント」というコンセプトがほとんど完成に近付いた1枚です。
特にアルバム2曲目「FRIENDS」は、ロック歌謡として文句の無い出来上がり。溢れる輝きは木村カエラ「Happiness!」を初めて聴いた時の印象に似ています。サビの「どんなときも 大切なもの それは「友達」だって 言えるような 私にしてくれて ありがとうね」というラインは、他者との出会いと承認を優しい言葉で描き、凡百の友情ソングと一線を画すことに成功しています。
さくら学院はとにかくプレミアムなグループです。本当は星5つ付けたいところですが、2012年度も期待! というわけで星4つです。オススメ!
「さくら学院2012年度 〜my generation〜」
成長と充実。何よりみんな楽しそう。
中元すず香体制によるさくら学院2012年度のアルバム。
NARASAKI作曲、本気のダウンカッティングが印象的な重音部「ヘドバンギャー」に始まり、幼稚園チャートナンバーワンも夢じゃない、かわいいは正義を体現するクッキング部。そこはかとないスカ/カリプソ? それともへなちょこロカビリー? 独自の路線を突き進む帰宅部。待望の渋谷系、おしゃれポップス職人宮川弾による楽曲から放たれるきらめきは、テニス部の4人の声とも相性抜群。先行シングルでテン年代のJ-POPを更新した科学部は新曲も絶好調。上品なメロディの中を暴れまわるベースとドラム。しかし、決してエキセントリックな印象は見せず、グルーヴしていくアレンジには冨田恵一に通じるセンスを感じます。
そんなこんなで、とにかく部活動の充実が嬉しい今年度ですが、やはり最後は中元さんのアルバムということになるのでしょう。ブリットポップ(まさかの)なソロ曲「桜色のアベニュー」からの切なさを内包する疾走感を、そのまっすぐな歌声で引っ張ります。さくら学院を語る上で欠かせない「ユニゾンの美しさ・多幸感」にとっても、中元さんの声がいかに重要だったか。その存在感の大きさに改めて気付かされます。
とにかく毎作が重要作。この瞬間でしか味わえない輝きを、今捕まえるべき!もちろん名盤確定なのですが、来年度への期待も込めて、星4つ!
「さくら学院 2013年度 〜絆〜」
エースの不在から生まれる最高傑作
成長期限定ユニットさくら学院の2013年度のアルバム。
堀内まり菜会長を中心とした今年のサブタイトルは「絆」。絶対的なエース不在となった今年のさくら学院はアルバム冒頭から本隊の存在感を見せます。突き進むような輝きを放ちながら、部活曲(ユニット曲)にいくまで4曲。これまでのアルバムで最長です。
その後の部活曲はさすがの完成度。ブレないキュートさのクッキング部。一気に雰囲気をクールに変える科学部と常春の解放感を感じさせるテニス部はどれだけ素晴らしいと言っても、過大評価になることはないでしょう。
終盤は、さらに畳み掛けます。サビのユニゾンが強固な一体感を作る「IJI」、これまでのストーリーをなぞるかのようなさくら学院にしか歌えない友情ソング「未完成シルエット」、そしてすべてが報われるような暖かさと希望に満ちた「Jump up」。
ここまで歌詞を嘘偽りない心で響かせられるグループは他に無いでしょう。与えられたブックではなく、自ら紡ぎ出した物語を背負って、集大成となるようなアルバムを作りました。ライヴや日誌、インタビューなどを巻き込んで、多層の見方をするほど、深みも増すアルバムです。ここで星5つ、出すしかないでしょう!
「さくら学院 2014年度 〜君に届け〜」
フォーミュラ・さくら学院
さくら学院にとっては恒例の2014年度を総括するアルバム。
一応、5thアルバム、ということになるのですが、さくら学院はそのコンセプト上、まったく同じメンバーでのアルバムが1枚も無いため、アルバムごとに、不思議な洗練と新鮮さがあります。もちろん、それは5枚目となった今作でも同じです。
アルバムは祝祭感あふれる自己紹介ソング「目指せ! スーパーレディー」から始まり、前半はアイドルらしい弾けるような歌声とサウンドが楽しめます。可愛さを限界までチューンナップした菊地最愛、やや上ずったピッチが中毒的な魅力を生む水野由結、ユニゾンを押し支えるパワフルさをもつ田口華、線が細くてもしっかりした芯を感じさせるようになり、蠱惑的な響きをもつようになった野津友那乃という最高学年の4人の歌声のグラデーションが色鮮やかで、ソロパートもユニゾンも聴かせるというさくら学院と製作陣の意気込みが伝わります。個性豊かな在校生には申し訳ないのだけど、やはりさくら学院のカラーは中3のカラーが濃い、ということに改めて気付かされます。
部活動を挟んで(購買部は名曲! これを待ってた新聞部以来のさくら学院パワーポップ・リヴァイヴァル!)、後半は弾むビートが気持ちいい「宝物」から表題曲「君に届け」まで一気に感動曲線駆け上がります。CDをリピートすることをためらわせるような、物語を読み終えたあとのような余韻と、カタルシスがあります。
これこそが、「さくら学院」というフォーミュラ(型)によって生み出される多幸感だと突きつけてきます。菊地最愛、水野由結という当世アイドルシーンにおいても比肩しうる存在のないプレイヤーを擁し、そして脇役というには勿体なさすぎるメンバーによって、ルックス・パフォーマンス・キャラクターともに、最強となったのが2014年のさくら学院。2013年のようなドラマはなくとも、2012年のようなスーパースターがいなくとも、2011年のようなマルチロールなリーダーがいなくとも、さくら学院はこれだけの多幸感を生み出せるということの証明です。
これを越えるのが、2015年の使命。もちろん全面支持です。そのための星4つ!!