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ちゃんとしたい。


by sattyra1017

不可能可能性小説③「ない、ことだけが、ある」

唐突に1年は終わる。
なんとなく続いていた日常がふっと切断される。セレモニーがあって、通知表をもらう。中身を見てひととおり安心したりもする。これだってセレモニー、儀式だ。明日からの春休みだって僕にとってはひどく儀式的で、浮かれる気になれない。というよりも、浮かれる理由がない。友人からファーストフード・パーティに誘われるより早く、足早に僕は学校をあとにする。彼らが律儀にいてもいなくても変わらない僕にも声をかける。とりあえずその律儀さに感謝はしているが。

帰り道に思う。
儀式なんかじゃない。節目だから、浮かれたくないんだ。
自転車を漕いで、イヤフォンを耳に挿した。音楽は再生しなかった。自分の心が操られるような気がした。フラットにフラットに。春に変わりつつある、真っ青な空を見ながら、坂を登る。努めて、平静に。自宅に帰って、自分ひとりの部屋で、またはリビングで家族と、僕は努めて儀式的に振るまった。僕の儀式は滞り無く進み、風呂から上がり、ベッドに転がる。時刻は日付変更線を越えるころになっている。順調だ。ブルートゥースでつないだオーディオを再生する。DJ itunesがかける曲をなんとなく聞きながら、眠る。という次第の儀式。

しかし、その儀式は不意に中断された。DJが彼女の曲をかけたからだ。ピアノに導かれて、ストリングスが響く。溌剌として清らかなユニゾンのなかにある、ただひとつの声を僕は難なく聞くことができるようになっていた。日付変更線を越えるたびに、彼女は遠くなっていった。1年という節目が、そのことを一層痛烈にした。わけがわからない、と自分でも思う。空虚であれば、あるほど。不在であれば、あるほど、その存在は大きくなっていった。あいたい、と思った。歌っている彼女、踊っている彼女、もしくは、一度だけそうであったように、僕だけに笑顔を見せてくれた彼女、でも、あいたくない、とも思った。全部同じ思い出のようだし、すべて別人のようでもあった。歩んでいるのは完全に別の道なんだということがわかっているのに。

涙なんて出ない。
いつの間にか曲は終わっていた。重たくなるまぶたに逆らうことはせず、睡魔に身を任せた。新しい季節の予感は、眠りを柔らかくしてくれる。視界が暗くなると、自分の中に生まれた巨大な空白を大きく感じた。うまく表現できないが、これがどうにもならない寂しさとか、そういうものなのだろうかと思った。そして、いつかこの空白もなくなるのだろうか、と心配になった。

それはいやだな。






by sattyra1017 | 2015-04-19 23:43