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ちゃんとしたい。


by sattyra1017
唐突に1年は終わる。
なんとなく続いていた日常がふっと切断される。セレモニーがあって、通知表をもらう。中身を見てひととおり安心したりもする。これだってセレモニー、儀式だ。明日からの春休みだって僕にとってはひどく儀式的で、浮かれる気になれない。というよりも、浮かれる理由がない。友人からファーストフード・パーティに誘われるより早く、足早に僕は学校をあとにする。彼らが律儀にいてもいなくても変わらない僕にも声をかける。とりあえずその律儀さに感謝はしているが。

帰り道に思う。
儀式なんかじゃない。節目だから、浮かれたくないんだ。
自転車を漕いで、イヤフォンを耳に挿した。音楽は再生しなかった。自分の心が操られるような気がした。フラットにフラットに。春に変わりつつある、真っ青な空を見ながら、坂を登る。努めて、平静に。自宅に帰って、自分ひとりの部屋で、またはリビングで家族と、僕は努めて儀式的に振るまった。僕の儀式は滞り無く進み、風呂から上がり、ベッドに転がる。時刻は日付変更線を越えるころになっている。順調だ。ブルートゥースでつないだオーディオを再生する。DJ itunesがかける曲をなんとなく聞きながら、眠る。という次第の儀式。

しかし、その儀式は不意に中断された。DJが彼女の曲をかけたからだ。ピアノに導かれて、ストリングスが響く。溌剌として清らかなユニゾンのなかにある、ただひとつの声を僕は難なく聞くことができるようになっていた。日付変更線を越えるたびに、彼女は遠くなっていった。1年という節目が、そのことを一層痛烈にした。わけがわからない、と自分でも思う。空虚であれば、あるほど。不在であれば、あるほど、その存在は大きくなっていった。あいたい、と思った。歌っている彼女、踊っている彼女、もしくは、一度だけそうであったように、僕だけに笑顔を見せてくれた彼女、でも、あいたくない、とも思った。全部同じ思い出のようだし、すべて別人のようでもあった。歩んでいるのは完全に別の道なんだということがわかっているのに。

涙なんて出ない。
いつの間にか曲は終わっていた。重たくなるまぶたに逆らうことはせず、睡魔に身を任せた。新しい季節の予感は、眠りを柔らかくしてくれる。視界が暗くなると、自分の中に生まれた巨大な空白を大きく感じた。うまく表現できないが、これがどうにもならない寂しさとか、そういうものなのだろうかと思った。そして、いつかこの空白もなくなるのだろうか、と心配になった。

それはいやだな。






# by sattyra1017 | 2015-04-19 23:43

イベントを主催します。

このたび、音楽イベントを主催することになりました。
日曜の昼間、小さなライヴホールでのライヴですが、非常に贅沢なメンバーが集まってくれました。
かなり出しきった感があります。よろしくおねがいします。

2015/3/22 (日)
新栄リフレクトスタジオ(6F)

「白昼夢を二度見る」
amiina(東京)
daphne.
溶けない名前
miiiia

Open / Start 13:00 / 13:30
Adv / Door 1000円

フロム東京amiinaさんたちはなんと名古屋初登場。そんな素敵なファーストタイム、一緒に体験しましょう。
予約はメール(sattyra1017@gmail.com)やコメント欄。ツイッター@sattyra1017まで。お待ちしています!
# by sattyra1017 | 2015-02-05 23:38
後半戦いきます。
お願いします。

5位 Idol Illmatic / ライムベリー

ライムベリー・イズ・バァァァァック!!

台風のような勢いとグループのポテンシャルを見せつけたスペシャルなEP「Hey Brother!」が、もう2年前。「ねーお兄ちゃん!」で全国の残念なオトナたちの脳みそをドロドロに溶かしたライムベリー。そのときからとにかくライヴの熱量ものすごく、T-palette(言わずとしれたタワレコのアイドルレーベル)に参加後も、本気度満点、超グルーヴィなEP3枚を出すものの、事務所のトラブルか何かで活動休止。復活が決定するも、MC YUKAを「家庭の経済的理由」で失うという、現代アイドルシーンの狂熱と残酷を一身に受けたライムベリー。誰しもが待ち望んだカムバック作です。

リリース前からTIFなどで聴いていたものの、とにかく楽しい。デビュー当時からの勢い、性急さはそのままに、これまでの経験によって研ぎ澄まされたスキルが加わって、もはや最強。思春期が刹那であることを匂わせる「In the house」もあり、なんか、男子の知らない、でもちょっと憧れる、想像上の女子が詰まったような1枚。最高でしょ。

http://youtu.be/CvZQJwvPiig

4位 merry go world / マボロシ☆ラ部

アニメ「くつだる」の企画ユニット、というにはあまにも惜しい、そしてあまりにもキュートなユニット。メンバーはちゃおガールグランプリ金井美樹、元・可憐Girls島ゆいか、さくら学院OG堀内まり菜、佐藤日向。まぁ、この段階で落涙、号泣という人はいくらでもいるかと思います。

♩ぐっぐぐるる

とにかく、CD再生して、最初の声がこれです。文句なくハッピー。ワクワクする試しに一緒に言ってみましょう。そーれ。

♩ぐっぐぐるる

合わせてみようとすると意外と難しい。リズム感がしっかりしてないと、この躍動感はでない。ベースがしっかりしてるんだ。曲もスキルも。それで、しっかりアイドルポップスをやってる。それが、このグループのすごいところ。この良さがぎっしり詰まっているのが、3曲目「記念日ノート」。もはや様式的ともいえるアイドル曲や、そのアンチテーゼのようにヒリヒリしたオルタナの切迫感を伝える曲がある中で(どっちも結構好きなんですが)、ぽっかりと空いた良い曲を、ちゃんと歌う、という奇跡。その奇跡が起こせるグループがマボロシ☆ラ部です。

2015年、活動が続いてくれることを何より願っています!

http://youtu.be/pSvDuzV0doo

3位 序曲 /3776

当世アイドルブーム、究極の突然変異体、フロム・富士宮。

それ以上の説明が必要でしょうか。とにかく大変なことが起こっている3776(みななろ、と読む)。ほとんど悪夢のような曲だけでなく、思わず落涙するような優しい曲もあります。でも、どこか不穏なオーラが貫いている。なぜ?  そして、その不穏なオーラにまったく気づく様子も無いメンバーたち。この齟齬。今年、よくわからないドタバタによって、メンバー4人のうち3人が卒業するという異常事態もまったくもって3776的。この理不尽。そして、たったひとりになった3776がさらにぶっ飛んだEPでもって、この年末にもう一度アイドルポップスシーンを騒然とさせたこと。このエネルギー。

ドルヲタもロックファンもポップフリークスもパンクキッズもとにかく全員聞いておくべき!

http://youtu.be/rxK11qRvP2Y

2位 Drop / run blue / amiina

今年1番の発見。ゼロ年代以降のロック/ポップスの空気をふんだんに吸い込んだ2人組。amiとmiinaで合わせてamiina。

当代アイドルポップスにおいては鉄板ネタともいえるユーロビート的なアレンジからかけ離れ、さらにはアキハバラ経由のやたらと壮大なロック調のアレンジとも距離のある楽曲がとにかくすばらしい。わたくし、常に音楽は「覚醒」(アガる、アッパーな)か、「陶酔」(なごむ、うっとりする)のどちらかに寄与するものだと思っています。そして、当代アイドルポップスのほとんどが「覚醒」に与するなかで、amiinaのポップスは「陶酔」に与するのです。もちろん、曲によっては、アッパーな曲もあるんですが、このEPに入った「drop」も「Monochrome」も、とにかくうっとりするばかりの輝きが詰まっています。2人の歌声は、もちろん甘さの残るものですが、その未完成さが儚さを加速させて、美しさを増すというすばらしいサイクルに入っています。

来年とか本当にバカ売れしてしまうと思うので、toe、spangle call lilli line、Morr musicのバンドなど、音響派ポップス好きを自認する諸氏はチェックチェック!

http://youtu.be/P8RrL9j8_Nc

1位 さくら学院2013年度 〜絆〜 / さくら学院

今年はこれを出すしか無いでしょう。

堀内まり菜、佐藤日向、飯田來麗、杉崎寧々というさくら学院オリジナルメンバー4人がいかに偉大で、この腐った30歳オーバーのおっさんに見せてくれた美しい夢と希望がどんなものなのかは、筆舌に尽くし難いです。さくら学院という美しいサーガ(叙事詩)が、三部作を終えて、残したものは恐ろしいくらい素直でまっすぐな、若さと純粋さの賛歌なのです。その中心には堀内まり菜がいて、さくら学院サーガにおけるトール(実質上の主人公)は彼女だったのだということは認めるしかありません。

アイドルは青春の時間と美しさの搾取なのか、ドルヲタはそれを金で叩き買う悪魔の取り引きに取り憑かれた愚者なのか。シーンの中にいても疑問は生まれるが、さくら学院を見ているときだけはそれを忘れられる。それだけでも、奇跡。

http://youtu.be/l9evdOq5LSU
# by sattyra1017 | 2015-01-02 23:56
2014年ももうすぐですね。
年に2・3回しか更新しないこのブログの更新時期がやってきました。

今年は前半・後半で更新したいと思います。というわけで、前半です。
順位づけには明らかに意図のある、差を感じるものもあれば、ほとんど無いものもあります。その辺を踏まえて読んでいただけると幸いです。

10位 永遠と瞬間 / 武藤彩未

この道10年の大ベテランにして、今年のニューカマー。さくら学院初代生徒会長、武藤彩未、ようやくのソロデビューです。セブンティーンアイスや伊勢丹のポスターで見かけた方なら分かるように、彼女がまとう雰囲気は、かわいらしく、愛嬌がありながらも、気高さと上品さを感じさせます。まさに、アイドル。スキルにおいても、昨年リリースの80年代カバー集にて、「セシル」で全国の迷えるアラサー男子を皆殺し(涙で溺死)させたことからも、間違いないものです。

そんな武藤彩未さんのファーストアルバムは、昨今のJPOP的な軽さや派手さを前面に出しながらも、メロディは完全にアイドル歌謡。不思議ないびつさと懐かしさを感じさせます。当世アイドルブームにおける「楽曲派」的な見方をすれば、小さくまとまりすぎな側面もあるのですが、しかし、王道にて勝負するのが、この武藤彩未。聴けば聴くほど染み込むのは、「とうめいしょうじょ」や「永遠と瞬間」で聴かれるヴォーカルの豊かさ、柔らかさです。直球だけで、仕留めてくれ、ポップの心。そしていつか、日本の皇后陛下になってほしい。

9位 Gusto / especia

バブルの亡霊か、それとも歌謡ファンクのルネッサンスか。とにかく曲がめちゃくちゃカッコいいespecia待望のフルアルバム。・・・のはずが、何故かイマイチ聴き込んでないアルバム。曲も良いし、ライヴも楽しいし、リミックス攻めてるのに、自分でもよく自己分析できないのだけど、期待値が高過ぎたのかなぁ。いやいや、十分すぎるくらい曲も良い・・・

結局、これは何かというと、完全に自分のせいなんだけど、especiaはあまり物語を感じないからだと思う。もちろん、杉本さん脱退という大きな出来事はあったものの(そして、そのことが自分に与えたダメージは小さくなかったわけだけど)、あまりに楽曲が印象的過ぎて、especiaに関しては物語を追っていなかった。そのことが聴き込んでいないということにつながったのかもしれない。自分にとっては楽曲派廃業届みたいなアルバム。(ちなみに、メジャーデビュー決定後に、プロデューサーは湘南の風というアクの強いアングルが組まれた。あとにまた出てくるけど、ビクターのアイドルレーベルはどうにもやりかたが自分とは合わない)

イエス。アイアム物語厨。

8位 koboretesimattamizunoyiuni / faint star

ex.tomato'n pine再始動、ということだけでどれだけ盛り上がったか分からない。今年は武藤彩未会長、ライムベリー、アイリスとカムバックに沸いた年でした。アイドルブームは終わった終わったと言われていますが、終わったのはAKBブームが終わっただけで、AKBブームが残した遺産(単一CD大量買い、定期的なライブハウスでの公演など…)を上手く駆使して何とかやっている、というところではないでしょうか。

さて、そんなfaint starですが、もちろん楽曲は期待通り。ピンチケ感ゼロ。1番日本のCDシングルが売れてた時代を思い出させる、今やノスタルジーさえ感じる名曲ぞろい(amazonのレビューも書きました)。悔やむのは、その後に続く展開がほとんどなかったこと。リリース、リリイベ、TIFという流れは良かっただけに、残念。「トマパイおじさん」(ジェーン・スーさん命名)の1人として、来年のさらなる飛躍を期待しています。心から!

7位 魔法の呪文 / アイリス

今年の夏はアイリスでした。

さくら学院のTIF(東京アイドルフェスティバル。目下僕が行った今年唯一のフェス)は、もあゆい不在、部活動なし、出番少ない、ということもあり、近年ではもっとも自分のDD力が試される現場でした。その中でのベストアクトがアイリスでした。何年か前のこのチャートでも、テクプリをランクインさせましたが、そのテクプリが健康上の理由からリーダーを失い、出直しグループがアイリスです。宮城出身の彼女らの涼やかな美人っぷりは、夏に合います。

と、いうわけで、昔感じたあの清涼感を求めて、ライヴを見たわけですが、これまた楽曲もスーパー素晴らしい。あくまでポップスの範疇にとどまる歌謡ファンク・ソウル風味な3曲。名曲を多発していた頃のスマップ、もしくは内向的になる前の宇多田ヒカルを彷彿とさせます(実際にアイリスの製作陣のなかには宇多田ヒカルのアルバムにアレンジで参加しています)。特にイントロのシンセが哀愁をさそう「アイリス」は屋上ステージの様子もあいまって、もう感涙ものでした。あぁ、またすばらしいグループと会ってしまった。

しかしながら、その後は楽曲の方向性が迷走。本人たちはめっちゃ頑張ってるし、キャラもたってるし、ユキノさんかわいいし、っていうのに、まったく推せなくなるという悲しい事態が発生。最後の希望であったメジャーデビュー後のシングルも、あの輝きは帰ってこず(このあまりにも『分かってない』メジャーレーベルがビクターのアイドルレーベルなのである。ビクターはスピードスター(ロック)もフライングドッグ(アニメ)も、結構信用できるのに…)。今、自分の財布のなかには彼女らのデビューシングルの引換券が入っていますが、見るたびに悲しさばかりが募ります。

そんな真夏の夜の夢、アイリス。女子流ともespeciaとも違う独自のファンク解釈が詰まったファーストシングルは本当にオススメ。

6位 killing me softly / 東京女子流

昨年のこのチャートで、とても悲しかったことは女子流が入れられなかったこと。
好評だったソウル・ファンク路線を捨て、ロック寄り、JPOP寄りになって、勝負に振りきった前作「約束」は、「志は理解できるけど…」というわけでやっぱりあんまり聴かなかった。女子流ちゃんはエイベックスというJPOPの総合商社に所属しているわけなんだけど、その中の異分子、というか、監督不行届なところが魅力だったのだ。と自分は改めて思ったのでした。

というわけで、今作。まずはタイトルでプラス査定です。女子流ちゃんに「Killing me softly」(そっと殺して」)なんて言わせちゃダメでしょ! 最低だ! 最高だ!最低だ! 最高だ!(以下略)という危うい、危うすぎるバランスが帰ってきた! 楽曲的にも、松井「院長」寛のエッジが立ちまくり。鋭いメスで、楽曲のビートを立てます。すばらしい。冒頭からタイトル曲の退廃性が立ち込め、続く「Pain」では、これぞ、という女子流ファンクが聞けます。もちろん、「ちいさな奇跡」という全年齢向けポップスもあるんですが、アルバム半ばまでは攻めまくり。これは、今後の方向性に迷いなし、という女子流ちゃんのマニフェストみたいなものでしょう。

他にも押しも押されぬ売れっ子レーベル、マルチネレコードとのコラボ(大成功ですね)、アイドル映画の枠を越えた(いろんな意味で)「五つ数えれば君の夢」など、2014年の女子流ちゃんは非常に充実していました。大人と子ども、聖女とビッチ。狭間にとどまることを覚悟した女子流の危うさと、そこから匂い立つ魅力にあがなうことなど、もはやできないのではないでしょうか。

今度こそ、売れてくれ!
トリプルエーから紅白枠を奪ってくれ!!
# by sattyra1017 | 2014-12-30 17:59
 境界線には大きく分けて2種類あります。
 人々が作ったものと、自然を使ったものです。

 中学校の社会科の授業、ひとしきり地球儀で遊んだ後に、教師が妙に真面目な顔をして説明した。

 人々が作ったものというのは、アフリカの国境線のように緯度や経度を利用しているので、直線になっていることが多いです。緯度や経度は目に見えません。人間が作った地図の上にあるだけですよね。
 自然を使ったものは、ヨーロッパやアジアの国境線のように、山の頂上や河川といった自然を利用しているので、ぐにゃぐにゃの曲線になっていることが多いです。なかには地図が作られる以前からずっと境界線になっているところもあります。

 へえ。

 そんな風に特に感動もなく、その説明を聞いていた。しかし妙なもので、そういう知識を持った後だと、自分の住む街にある境界線が妙に気になるもので、意識してみると、自分の住んでる国のなかにある細かな境界線も川や山や湖に沿って作られていることに気付いた。その発見は僕の知的好奇心を満たしたけど、だからって、どうというわけではない。残念ながらノーベル賞級の発見ではない。
 上野行きの各駅停車に乗りながら、ぼんやりと車窓を眺めていた。急ぎの乗客はほとんど10分後に来る快速電車に乗るので、各駅停車のこちらはずいぶんと穏やかな車内だ。休日の同乗者は子どもかお年寄り。外に出れば厳しい陽射しも、ガラス越しに見れば穏やかなものだ。電車は川を越える。
 境界線を越える。
 車窓を支配していた広がる稲穂の緑が消え、三角屋根の住宅によって埋められる。線路と並走するように伸びていた道路は曲がり、交差し、上を走るたくさんの自動車とともに拡散していく。いくつかの駅を過ぎる。あまり変わりばえのしない乗客とともに電車は進み、また川を越える。
 境界線を、越える。
 景色は一気に灰色に埋められていく。陽射しは未練がましく灰色の壁を輝かせる。壁の隙間に残された空からわずかに遠くが見える。巨大なショッピングモールにたくさんの人が飲み込まれていく。いくつかの駅は明らかに騒々しく、乗客は華やぐ。パステルカラーのワンピース、大きなシルバーのピアス、複雑な模様の帽子。もうひとつ川を越えれば、いよいよ都心。
 また境界線を越える。
 ふと杉﨑さんのことを思い出す。
 彼女は中学校で習う前に、この車窓を通じて、境界線について知っていたのだろう。
 東京の都心から、ほんの1時間ほどの道程。そのなかに織り込まれたいくつもの境界線、断層、壁。非連続的な変化をしていく車窓。華やぐ街と寂れた街。増える灯りから迫る宵闇。ひとり窓の外を眺めて、彼女は自分の影をどこに置いたのだろう。あの日見た屈託のない笑顔は、彼女がステージで見せていたものと、どう違ったのだろう。もしくは、まったく同じだったのだろうか。
 杉﨑さんに聞いてみたいと思った。
 彼女はアイドルを辞めた、と聞いた。友達のツテを辿ってけば、きっと話すこともできるだろう。けれど、彼女に昔のことを聞くのは、ひどくデリカシーに欠けたことに思えた。それに、そのことを話してしまったら、彼女が自分のなかで、どんどん遠ざかっていくような不安もあった。車内を見回した。車内は都心に向かう人でいっぱいになっていた。そこに探していたシルエットは無い。当たり前だ。

 僕はずっと彼女を探していたことに、ようやく気付いた。
# by sattyra1017 | 2014-08-14 02:33 | その他